内製での製品開発は、熟練の見識と技量、そして誠実さをも伴った試作メーカーとの
パートナーシップが欠かせない。
試作メーカー数社との共同開発により、優れたNewパーツが生まれて来るわけだが
それはサンクチュアリーやディンクスの関与も欠かす事ができず 正に共同開発と言う
言葉がピタリ、あてはまった。
製品の開発とは、誰か第三者の業者が「構想」し「図面」を書き「製作」したものを
さも自社開発として唄うような行為ではない。
ただ取り付けして確認しただけなのに「内製開発」と宣言するのは、愚行とも言える。
何よりありきは ”サーキットでのテストライド”
ストリートではない、とびきりハイレベルな激しいステージで痛めつけた結果こそが
真の製品検査となるから、その環境を持たずして「内製」と唄うのは少なくともない。
プライドに賭けて「ない」と断言しよう。
2023年
7月、 真夏の筑波サーキット
この日、気温は30度超え、路面温度は60度超え
コンクリートからの照り返しがいつもより厳しく感じる、うだる様な暑さの中
猛暑にも拘わらず、数回に渡って走行を続けていた・・・
サンクチュアリーの歴代Zレーサー史上、こんな時期に何度も走行を繰り返したのは
初めての事だろう。
最悪の条件下、空冷Zのチューニングエンジンマシンで走行する行為は過酷であり
コースインして3~4周も回れば パワーは著しく低下し始める・・・
明らかな出力ダウンはわかりやすい程の変化で、空冷エンジンのキャパシティーが
如何に低いかを痛感させられる想いであった。
そんな厳しい季節にも拘わらず走行を続けているのは、今年の初頭から繰り返し
行われて来た製品開発のテストを進めたかったからである。
この製品開発を成し得なければ、レースでの勝利はないとまで言わしめる・・・
重要な工程が故の真夏のライディングであった。
6月上旬に遡る・・・
浜松の某所
区間タイム短縮に欠かす事ができない、オリジナルの新型6速クロスミッションの
開発と検証は佳境に差し掛かっていた。
最初の走行で材質の検証が完了。
SCM、所謂クロモリ鋼に浸炭焼き入れをして使ったが、浸炭層が如何に深くとも
靭性なき材質がダメである事がテスト走行で実証できたのだ。
ニッケルを含有したクロモリ鋼でないと、國川浩道と3号機の走りにドグが負ける。
コンスタントに0秒台でラップしていたとは言え、30分を2本、それも時折
ピットインしての走行でこの状態は、あきらかに材質変更が必要であると判断。
SNCM420とSCR420の二鋼だけに絞る事とした。
失敗とは、大きな前進を得られる事でもあるのだと実感させられる。
ここまで幾度となく訪れた、T社・・・
レースの厳しさと過酷さ、そしてその重要性と醍醐味を良く知るT氏との会話は
常に同じ方向の話だ。
「言うだけなら簡単よ、それをどう造るかなんだから」と、開発は言葉だけでは
成り立たない事を真っすぐに語る。
そしてレースの意義もよく知っていた・・・
「真剣にレース活動してるサンクチュアリーの姿を見てね」と、T氏がタッグを
組んでくれた理由を知ったのは、後日談からである。
「なんたって肝は、このシフトドラムだぜ」
従来品の問題点を全て洗い出した その手にあるのは、SCR420鋼のブランク。
口調こそ粗暴だが、かつて四輪の試作開発で名を馳せたT氏の言葉は強い・・・
しゃれた機能なんて別に必要ない。
大事なのはリード溝の設計と精度であり、焼き入れであり、面相度だから、今回の
テスト試作の繰り返しにより、シフトドラムに求められる構造も初めて知らされる。
そのあきらかな違いを体感するのに、さほど時間は掛からなかった・・・
走らずとも、手で変速操作しただけで わかる・・・
誠太郎は予想していたが、普段あまり動揺しない仁科でさえ真顔で「違う・・・」と
呟いたほどだ。
素組みだけの状態でも操作性が全く違うのは、すでに6月の時点で見えていた事だが
問題はコース上で59秒台ラップ走行してる時のシフター操作。
確実に区間タイムアップに繋がるフィーリングとなって、始めてNew6速クロスの
完成となる訳だから、まだテスト検証は必要である。
こうして舞台は、ふたたび7月の筑波へ・・・
ラストラウンドは猛暑下のもと、粛々と歩み出した。
(その2に続く)