前回から引き続きにて、ゼッケン39最後の挑戦 2023(その2)
3月初旬の筑波サーキット・・・
この時期、ある一定のレースにエントリーをしているマシンを除いて、Rクラスの
練習走行枠は混みあっておらず、比較的 予約は取り易った。
老舗 試作メーカーとの開発で誕生した【ディンクス鍛造ピストン】の、レース専用
仕様のピストンテスト走行は進む。
「ピットロードの走り出しで、回り方の軽さがもうわかる」と 國川は言った・・・
これでもか!と、徹底的に敢えていじめるが如く容赦ない走り・・・
これ以上厳しい負荷を与える事はストリートではとても不可能だなと感じさせる
それほどに、全く配慮の無い走り方・・・
これが中途半端な攻め方で アベレージも低い走りであったなら、本当の意味でも
テストにならないから、國川がライダーで良かったと別の見方をする事ができた。
メカニックとライダーが共同でマシン熟成を行う事意外に、製品を開発すると言う
もう一つの分野があった事・・・
そしてそこを、ライダーがその重要性を理解してくれている事が頼もしいと思える。
さりとて
内製でパーツ開発をすると言う行為が、如何に高い壁であるかは痛感・・・
これで良しと進めて行った先に、ほぼ必ずと言ってよいほど 良い点と悪い点の
二つが待っているが、取捨選択はしない。
今日のテストも明日のテストも全てが必要なプロセスであり、あきらめる事なく
継続して行けば活路を見い出せる事を経験して来たのだから。
とは言え、長旅である事も確か・・・
限りなく100に近い成績でテストを終えてからの本採用であり、市販化への
リリースは更にその後となるから、改めてメーカーの偉大さを実感させられた。
そして後日・・・
誠太郎と二人、東名高速を愛知方面に向かって走っていた。
もう1年もの長い時が経ち、その間 訪問は幾度にも渡るが・・・
この日はいよいよ最後の打合せを行うべく、別の試作メーカー工場を訪れていた。
先のピストン開発は、Zレーサー3号機の出力アップを見据えた開発であったが
こちらは出力ではなく 変速に着眼したもの・・・
2019年のエントリー時から抱えていたトランスミッション問題の改良である。
社内でコツコツ進めて来たミッションパーツの各部測定に、2DのCAD・・・
2Dから3Dモデリングへのデータ化へ進んで、各部を解析・・・
ひとまず、ここまでは良し・・
ただ ここからは、とにかく試作を造って組んでみないと見えない部分も多いはず。
材料は部位により適切となる選択式とし、SNCM420鋼とSCR420鋼
二種類の丸材を用意・・・
これが歯を切る前のブランクギヤ・・・
中央の溝はシフトフォークが掛かる部位だから すなわちこれはスライドギヤだ。
このあと、内径部を二種類のブローチで切削加工し 外周部はホブで歯切りする。
ここに並べられた歯車やシャフトは、これまで何度か試作を繰り返して来た分で
実は寸法や形状など 再度見直しが必要なものばかりである。
これを見てどう感じるか・・・
失敗品と片付けてしまえば、それまで。
もちろん無料で出来た部品など一つとしてないが、最後はどれも全て処分される。
だが、これら必要な失敗があってこそ その先にやっと成功が見えるもの・・・
自分も誠太郎も、これは布石として捉えている。
何度も何度も見直しては造り直し・・・
協力してくれた試作メーカーのT氏も、さぞかし大変な事であったろう・・・
だが、このT氏が幸いにも「もの造り」に賭けた情熱を持っていた男だった事が
自分達にとって幸運であり、運命的な出会いであるとも感じた。
この日は念願のシフトドラムが出来上がった為、操作性を確認する事ができる。
従来品の問題点はもう隅々まで検証できており、それらを全て解決できたなら
國川の、器用ながらもラフなシフター操作についてくる変速が可能なはずだ。
スムーズかつ 強度に優れたドラムに仕上がれば、それは大きな戦力となるから
最重要な局面を迎えていると言えるだろう。
インプット側とアウトプット側、双方シフトフォークはひとまず純正を用いたが
メーカー欠品となっているインプット側フォークの製作も同時進行で設計企画を
進めており、夏頃にはそれもテストライドできる予定である。
研鑽に浸る開発
オリジナル品だと語るのは簡単な事だ。
自らそうだと唄えば良いだけの事なのだから。
こんな話を多くの人達が見ているブログで語るのはどうかとは思ったが・・・
サンクチュアリーは格好を付ける気持ちはない。
自分達が携わっている開発のプロセスを見せよう。
自分達がどこまで関わり、結果 どんな失敗を繰り返して苦汁を味わったか・・・
その酸いも甘いも見せてこそ、真の自社製である事を証明できると言うものだ。
それが真実だと思う・・・
(その3に続く)