引き続き連続にて、ゼッケン39最後の挑戦 2023(その3)
同時進行で複数のエンジンパーツ開発を進めるのは 骨身に染みる険しい道のりだ。
テイストオブツクバ5月の大会が近づく上旬に、この春3度目のテスト走行があり
その日、また一つの製品を試す事となっていた。
今まで使用して来た純正バルブの加工流用品ではない、自社製の5.5mmステム径
材質SUH35材のビッグバルブである。
バルブガイドは既に5.5mmサイズのものになっていたが、バルブを替えるなら
シートカットが必要だから、シリンダーヘッドをディンクスで加工する事に。
コンプレッションを少しでも稼ぐべく、バルブフェイスをなるべく潜らせない様に
HM-2000EVOでシートリングを3面カットでリフェースした。
これは何度も見直してテストを繰り返して来た、5.5mmステム専用リテーナー。
2019年の大会、そしてレコードタイム58秒071を叩き出した2020年も
この専用リテーナーを使用し続けて来たが、最終的な軽量化やセット荷重位置など
全てが「ようやく良し」と、自信を持てる状態での完成である。
コッターは縦に組む。
使用してるカムシャフトはWEB460、バルブスプリングはZ用のAPE。
スプリングレートについては賛否両論あるかと思うが、基準値であると自覚。
精密な内燃機加工と繊細な組み付けをしっかり行った自社製バルブであったが
このあと皮肉にも、ほんの些細な問題点と思われる部分がアキレス腱となって
テスト走行を中断せざる得ない状況になるとは予想もしていない事だった・・・
数日後の筑波サーキット・・・
この日の走行は、ピストンとバルブのテスト検証を行う為のテストライドである。
この春3回目の走行だが、ここまで今一つ良い感触が得られていなかっただけに
さしもの國川も内心、多少なりとも焦燥感はあったであろう。
0秒台ラップでの抑えたペースでセーブ走行していた國川だったが、4周目に
エンジン不調でピットイン。
メカノイズを出したエンジンは、1気筒だけ火が入っていない状態であったが
これは・・・ と、思い当たる節があった。
一週間ほど前にもあった、組み上がったエンジンをスターター始動させた際の
タペットシム脱落トラブルである。
急遽、ピットでヘッドカバーを開けカムシャフトを外した・・・
このあと1時間後にも走行枠があり、バルブにダメージがないならシムを戻せば
走行が出来るから、誠太郎も仁科も懸命に追い付こうとする。
だが・・・
再度シムが脱落しないようにケミカルで固めて組み付け、何とか間に合わせるも
残念ながら死んだ一気筒に火は戻らず・・・
間違いなくバルブを曲げてしまったと判断。
よもや、インナーシムが飛ぶ体験をするとは思いもしなかった事なのだが・・・
とにかくも、この日の走行は終わってしまった。
破損ダメージが顕著にみられる、飛んでしまったインナーシムとリテーナー。
当然、バルブは曲がっていた・・・
ありのままを見せよう
包み隠さず、全て事実を
そしてこの日すぐに
ふたたび、ディンクスへ
ディンクスの工場長が思いついたかの様に、ストックしてあった新品バルブを
リフェーサー機にチャックして砥石を回転・・・
普段はやむなくセット長を合わせる際に行うバルブステムエンド研磨だが、これは
ステムエンド面精度を確認する為の研磨と言う、いつもとは違った趣向である。
砥石があたった部分が均一ではなく、一部だけ研磨されたのがわかるだろうか。
ステムエンド面の角度精度で出ておらず、なるほど これではシムの座りが悪い。
研磨してこれなのだから、最初は点でシムを支えていた状態だったのだろう。
0.1mm以上ストロークさせて平面の精度が出たから、決して無関係ではない。
ディンクス工場長の ”技術者としての勘” だったが、これだと感じた・・・
いずれにせよ、こうなれば正直きついが 再度検証するが為に必ずテストに臨む。
こんな事の繰り返しばかりだ・・・
何度も言うが、エンジンパーツの開発とは過酷な行為である。
ライダーを見送るメカニックは、コンマ1秒でも速く 楽に走れる様にと開発に
勤しんできた新たなパーツを組み込んで見送る。
ライダーも、メーカーレベルのレース活動を行って来た者なら、その重要性と
意義をよく理解してくれてるのだが、そうは言っても開発で失敗ばかり続けば
練習にならないから焦りは生まれるだろう。
それでもメカニックは、時には自分個人を犠牲にしてでも遠出までして研究をし
厳しい時間の流れの中で何とかものにしようと足掻くが如くあきらめない・・・
無いものを ”あみだす” のだから、たゆまぬ努力の積み重ねの上に始めて正立する
峻烈なものなのだろう。
失敗を、失敗として捉えてはいない・・・
失敗を糧に忍耐強く、放り出す事なく向き合い続ける真剣さを垣間見た・・・
だから、何度でも走り出すのだ。
内製とは・・・
本物の内製とは、ありものをそのまま自社製と唄うような行為ではないだろう。
根本には苦しく、厳しい時間を費やした地味地な開発の反復があると思っている。
でなければ、真の内製とは人に大きく語れないだろう・・・
少なくとも自分の ”プライド” はそうである。
好都合な事に、國川も容赦なく走ってくれるのだ。
むしろ、ぶっこわれるまで「これでもか!」と、スロットルを開け続けるから。
過酷な走りこそが本当の意味でのテストだ。
これは、日本の偉大な4メーカーが数十年に渡って行って来た行為でもある。
だからこそ ”もの造り” を行うのであればレースは欠かせないと改めて感じた。
先に開催されたテイストオブツクバ、ハーキュリーズ&スーパーモンエヴォの
決勝だけは社員達にも特別にライブ映像を見せたが、思わず手に汗握る・・・
そんなトップ争いであった。
空冷Zでハーキュリーズマシンに挑むと決めた以上は・・・
サンクチュアリー本店レーシングも、多くの方達の琴線に触れる様な展開を
見せたいと切望している。