筑波サーキットには昨年の11月以来、来ていなかった・・・
今年の初頭から新型コロナウィルス感染問題が台頭・・・
選手権を含むイベントがことごとく中止になってしまい、テイストオブツクバ
5月の大会も見送られて 結局レース活動は封印・・・
そんな経緯だから、筑波サーキットに来たのは およそ11ヵ月ぶりの事である。
テイストオブツクバ11月の大会は、無観客にて開催される事が決定した・・・
本来であれば日本中から、いや近年は海外からの来場者までおり、遠方各地から
観客が沢山訪れるほどの人気レースで 長く続いているレースの下火感を考えると
これはとても貴重な現象であり、それだけに残念だが 今はこうするしか方法が
なかったのだと思う・・・
それでもこの日のパドックには多くの人が来ており 静寂の中にも温度があると
そう感じさせられた・・・
ほとんどの人達が言葉少な目に 各々作業に勤しんでいたが、そこにはかつての
レースに対するピュアな志を伺う事が出来る。
マスクで表情は見えないが、その下には笑顔があったかも知れない。
この日の國川浩道は 口数が少なかった・・・
昨年とは何かと違うし・・・ 複雑な想いや危機感は 拭えないのだろう。
少し前の事、セイクレッドグランドの新保氏が店にやって来て サスペンションの
構造やモディファイをテーマに 長い話し合いが交わされた。
新保氏は普段、ストリートバイク用サスのオーバーホール業務を生業としているが
根底にあるのはレースマシンサスのレーシングサービスで それを基軸とした技術で
サスペンション専門ショップを営んでいる。
長い話し合いになったのは 内容が幅広く深いからで、ここでは紹介しきれない程の
専門的ノウハウが延々と語られていた。
Zレーサー3号機のサスは この新保氏が担当してくれており、走行した距離の
換算からオーバーホール あるいは仕様変更などの仕事を受け持ってくれており
この日もリアサスペンションを回収しに訪れてくれている。
”もちは餅屋” と言う言葉が昔からあるが、レースをしているとよく見えるのが
専門スペシャリストの仕事で、これは何もサスだけに限った話ではない・・・
全日本ロードレース選手権をはじめ 世界選手権 Moto‐GPでもそうだが、1つの
チームにはサス専門のスペシャリストがついていたりする。
トップレースに限らず、単体としてのサスペンションを担当してくれているから
我々もマシンの総合的仕上げに集中が出来ると言うもので、餅屋の存在なくして
高水準でのレースは難しいと言えるだろう。
新保氏のストリートバイク用サスペンション業務の技術はレース活動なくしては
得られないノウハウをスキルとしたものであり、余談ではあるがRCMのサスも
普段からこの新保氏がオーバーホールを行ってくれている。
「レースをする訳じゃないから」 とは・・・
何度となく 幾度となく、一部のお客さん達から聞かされてきた言葉である。
バイク乗りの大多数が レースする訳ではない事は充分わかっている。
そうではなくレースがオートバイを造るのに如何に大切な行為で、それがどれほど
技術や車両の仕上がりに直結しているのかを伝えたかっただけであった・・・
そこにレースの意義があり、真価があるのだから。
とは言え・・・
正直に言えば、レースなどやらない方が商売には良いだろう。
お客さんのレースをお店がサポートするスタイルではなく、お店自身が負担して
レーサーを製作し店の看板マシンとして行うレースには 実は明確な利がない。
むしろ「そんな時間があるなら自分のバイクを納車して欲しい」と 訴えたいのが
お客さんの心情と言えるだろう。
こういう話は業界人でなければピンと来ないものであり、こうして活字化して
しまうと一部の人達から「よけいな事を」と 思われてしまうかも知れない・・・
だが これが概ね正直な現実である・・・
故に 全てのお店ではないが、レースしていないショップは商売順調の傾向がある。
もちろん何も商売重視が悪い訳でも何でもない。
カスタムショップとてお店を経営しているのであり、商売しているのだから・・・
誤解されない為にも補足するが、普通は生活が掛かっているのだから正当な事だ。
わかっているのだが、レースをやる・・・
技術と言うものは限界走行の中からしか得られないと思っているし、この考え方は
未だに揺らぐことなく変わらない。
なぜなら偉大なオートバイ4メーカーを始め、4輪メーカーとて 世界中でレースを
実験場にトライ&エラーを繰り返しているではないか・・・
それは乗り物メーカーだけに限らず、タイヤ、ブレーキ、サス、ホイールと言った
専門分野メーカーですらレースを重要な試験場として認識し 日夜開発を進めている。
言い換えればストリートマシンの根本 原点は、レースからのフィードバック技術で
積み上げられており、その強い因果関係が見えないのは如何なものかとさえ思う。
と、ここまで格好つけた事を書いたまではいいが ショップの旗艦マシンでレースを
やるのだから 現実は厳しい。
今はコロナ禍・・・
便乗して今回はエントリーを見送り 次回にかけると公表すれば格好もついただろう。
通常業務が多忙を極めるにも拘わらずレースにエントリーする事を決意したが
そんな最中で更に拍車をかけるが如く、サンクチュアリー本店ではある計画が
水面下で進行していた。
今回はじめて公表するが 【E‐RCMプロジェクト】と 名付けられたこの企画は
その名の通りEVのRCMを造る計画である。
EV開発のスペシャリストK氏は 実はRCMオーナーで、皆さんには知らせて
なかったが、ここ半年ほど 1ヶ月に一度のペースで打ち合わせが行われて来た。
これは山ほどあるEVのドキュメントや資料の ほんの1枚目にしかすぎないが
本格的な自社EVを RCM USA製で製作し、その後 ある大きな計画へと進む
プランを練っている。
勉強しなければならない事が多い未知の分野だが ここでもレースは大きな要因を
持って絡んでおり、今のレース活動そのものが先々コミットされるとするならば
このE‐RCMプロジェクトなのかも知れないと感じた・・・
コロナ禍もあって なかなか渡米出来ない状況だから、ロスのRCM USAとは
業務連携を進めにくいが、サンクチュアリークライマックスの章 最後を飾るに
相応しい最大のハードルである。
このE‐RCMプロジェクトの話は、いずれまたお話するとして・・・
目の前で必死に取り組んでいるのは 何の因果か・・・
エコを基軸にしたEVユニットとは真逆にある存在、空冷4発エンジンである。
1970年代初頭に誕生した 空冷Zのエンジン・・・
それからおよそ50年、後軸170馬力~180馬力と言う 凶暴な出力を誇る
油冷・水冷エンジンのマシンと戦う為に 最新技術を投入して戦力を上げようと
試みている行為は眼前のテーマであって・・・
残念ながら 決して未来に繋がるものではない・・・
内燃機エンジンチューニングの技術や キャブ&インジェクションの調整など
これまで身に付けた化石燃料エンジンに関する技法は、残す所 あと10年から
20年程度で不必要なものになる可能性がある・・・
それはあと10年でゼロになるとまではなくとも、半減するのは必至であろう。
それでも・・・
やらない訳には行かない。
最後の挑戦とは【空冷エンジンでやり切る最後の挑戦】と言う意味なのだから。
これは決して 商売ではない・・・
未来に繋がるノウハウの収集でも何でもない・・・
次があるからやっている事ではないんです。
あるのは威信とプライドをかけた戦いだけ。
空冷Zのエンジンで、かの最強 ハーキュリーズマシン達にどこまで抗えるのか。
悔いを残さない為にも・・・
今大会で成し遂げられるのなら、燃え尽きられるならと 切に願っています。
【音声付き動画】