ゼッケン39最後の挑戦 ラストRound【最終回】
昨夜遅くに修復が終わったばかりの3号機で臨む公式予選。
レースウィークでの事前走行がほぼ出来ないとは よもや予測もしていなかった
事態だったが、こうして参戦できたのだからベストを尽くすのみ・・・
ぶっつけ本番でアタックするだけに、國川浩道も入念に感覚を思い出していた。
とにかく よく間に合わせたと・・・
我がチームスタッフながら、褒めちぎりたい気持ちである。
姿形は修復できても、実戦で走るのはまた違う話である。
見た目重視カスタム車と競技用レーサーとの違いは、そこにあると言ってもいい。
むろん、修復しながらオーバーホールやメンテナンスは抜かりなく行っているが
走らせて見えて来る部分と言うのは多々ある訳で、そこの不安はぬぐえなかった。
2020年の時の様な58秒フラットは狙えなくとも、近いタイムは出したい。
ハイパワーハーキュリーズマシン群に空冷Zで対峙するにはスタートが重要で
その為にも好位置は狙いたかった。
ただ・・・
アタックはするが、何よりマシンのフィーリングを確認しなければならない。
予選でのアタックランが多少犠牲になっても決勝に賭けるか・・・
思惑が漂う中で
ハーキュリーズ&スーパーモンスターエヴォ2クラス混走での予選がスタート。
序盤、かなり慎重に走り出す國川浩道。
修復後の不具合や違和感を、一つひとつ確かめるように走っていた。
徐々にペースを上げて58秒台後半には入るも、そこからペースは上がらず
後から聞いた話だが、予選時間枠いっぱいを使って練習走行をしていたと言う。
この練習走行で得たものを決勝前にマシンに反映させるのだが、大きな賭けは
出来ないから自信がもてる作業だけ行う事になるだろう。
間違っていないと判断できる事さえ それを確認できるのは決勝での走行だから
やはりバクチに変わりはない。
予選をセットや練習走行がわりにしてはみたが、やれる事に限りはあるだろう。
だが、國川浩道は戦略を練っていた。
予選で手ごたえを得たのか、ポジションを上げて上位に食い込めると・・・
完全ではなくとも、やれると自信を持っていた様だった。
こうして迎えた決勝
グリッドへ向かう國川の表情には笑みがあった。
心なしか、誠太郎や仁科の表情も和らいだように見える。
満身創痍で迎えたこの日だったが、いよいよ決勝レースを向かえる事ができた。
後は送り出し、見守るだけである。
國川浩道とて同じ・・・
レースができる喜び
走れる喜び
そして、朧気ながらも勝算が見えた喜びなのだろう。
いよいよこれより、本大会 最強・最速2クラスの決勝が始まる。
水冷・油冷エンジン車 最速 ハーキュリーズと
空冷エンジン車 最速スーパーモンスターエヴォリューション
レースで走る全てのライダーと、レースをしている全てのチーム ショップの方達に
改めて敬意を表したい。
そしてこの後、全車エンジン始動
陽が暮れ始めたコース上で、全てのマシンの息吹を聞いた。
ところが・・・
ウォーミングアップランが開始されようとした、正にその時
どうした? 國川が立ちすくんでいる?
マシンか?
エンジン始動が出来ない?
電気系統のダウン!?
これは極めて軽微なトラブルなはずと ピットロードでハーネス系をまさぐるも
電源はオフになったまま・・・
だが、カプラーにもスイッチにも問題が見当たらない。
そして、バッテリーの突然死が原因と判明・・・
だったが 気が付いた時には時すでに遅く、全車 一斉にスタート
こうして
出走を断念。
虚無感だけが残った。
レースは終わりました。
あっけない、実に踏ん切りの悪い終わり方だったが、それでもここまで歩んだ
道のりに無意味なものなど一つもなかったと、そう強く思っている。
願わくば出走して完走し、3番手だろうが4番手だろうが、この電光掲示板上に
ゼッケン39を表示したかった無念は残るが、自分より 誰よりも悔しかったのは
ライダー國川浩道を始め 誠太郎や仁科らメカニック達だろう・・・
カスタム屋としてレースに望んで来た20年間・・・
最終走者Zレーサー3号機は、その眠れるポテンシャルを見せる事無く引退する。
だからこそ断言するが
3号機こそは、過去1号機&2号機とは一線を画した 最高戦力空冷Zであったと
信じて止まない。
見ていて思ったんですが
本当に泣きたい時って思わず堪えるもんなんだと、知りました。
まぁ、男だからなぁ
簡単にメソメソしたくないよね
在りし日の想いから始まった、四半世紀半に渡る空冷Zでのレース活動。
これ以上、自分のエゴを貫く訳には行きません。
Zレーサーでのレースはこれで幕を閉じますが、自社製パーツのテスト走行は
まだまだ続きます。
だから、またここ筑波サーキットには何度もやって来るでしょう。
レースに参戦しているカスタムショップやコンストラクター達は、強い・・・
その技術はレース活動をしているショップだけが得られる特典である。
レースで得たその技術は、カスタム・チューニングにも必ず精通していると
確固たる言葉で伝えたい。
サンクチュアリー本店レーシングは本日を持って停止しますが、またいつの日か
レースが出来たなら嬉しいですね。
応援して頂いた皆さん、この場を借りまして深くお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました。
真紅のZ
モンスターの伝説
空冷Z最速を賭けた、ゼッケン39の挑戦よ
永遠に
【終わり】
= 中山しんたろうさんが作ってくれた動画です=