あけて11月8日・・・
ピンポイント予報では晴天となっていた筑波サーキットは、いくらか雲が多く・・・
肌寒い早朝だった。
この日 このコース上で雌雄を決する、TOTの最強・最速クラス・・・
同時に大きな記録へと挑戦するゼッケン39、Zレーサー3号機と國川浩道。
58秒071のベストラップを叩き出し総合でのポールポジションを獲得すると
言う 明るい兆しが見えた前日の予選だったが、あのハーキュリーズマシン達を
軽視してはいけない・・・
中には200馬力を超える 超ハイパワーマシンも在るだけに、直線での勝負は
誰の目にもあきらか。
空冷Zがハーキュリーズマシン達と対等に戦うと言うレースは、そもそも常識を
逸脱した行為であり、まずはそこを忘れてはいけないのだと思う。
そしてその不利な条件を少しでも詰めようと臨んだ、最後の挑戦 Round2。
昨年のシェイクダウン時から当時出来なかった課題をこなし、後軸146馬力から
151馬力へ出力を載せられた事で期待は高かったが、コロナ禍による練習不足は
否めず、思ったよりも連度は上がっていないから そこだけは不安材料だった。
10:30
この日 特別に設けられた、混走2クラスのウォーミングアップ走行が開始。
昨日の公式予選では 3周目に58秒フラット近くまでタイムを寄せていたが
本来目指していたタイムは57秒台であり、その後 ある戦略を試みる予定が
4周目に点火ピックアップハーネスのカプラが抜けてエンジンストール・・・
だからこのウォーミングアップ走行は、実は非常に貴重な走行枠であった。
國川は走り方を考える・・・ 考えながら走っていた・・・
それは序盤を57秒台で回った後での58秒台キープ走行で、残した周回数を
エンジンを壊す事なく最終ラップまで持って行く戦略・・・
ハーキュリーズマシンのパワーで ひとたびバックストレートで追い抜かれたら
もう巻き返すチャンスは来ないから、この走り方を実現させる以外に術はない。
57秒台は従来通り引っ張り切ってバックストレートを走り抜き、58秒台に
移行してからはもう一つシフトアップして 回転を抑えながらも車速を載せる。
クロスレシオミッションとシフター無しでは実現させられない戦略ではあるが
これができたなら、後半エンジンの温存が出来るかも知れない・・・
空冷Zで戦える 唯一無二の方法であり、空冷Zで本気で勝ちを取りに行くと
考えていたのだ。
だが・・・
ピットインしたその様相を見て愕然・・・
これほどまでに白煙を吹いている状態を、見た事がなかった・・・
11:00
当然の事ながら 車検場でのマシンチェックが入る・・・
この場でも火を入れ あらためて白煙を吹いている事が確認され、決勝が始まる
少し前までに再検査を行い そこで直っていなければ出走許可は下りない。
慌てふためく暇もない位に マシンをチームブースへと戻す。
もうここで迷っている時間すら なかった・・・
11:30
あの白煙の量は尋常ではない・・・ オイルが大量に燃焼室に入っているはずだ。
とにかく原因を探らねばと まずは外からアクセスできる作業を開始するが・・・
12:00には覚悟を決めて開ける判断をし、エンジンを下ろした・・・
12:30・・・
予想はしていたが、カムシャフト回りを見る限りで 問題はなし・・・
タペットを外して点検、問題なし・・・
より燃焼室に近い所で何かが起こっているのは わかっていたし、時間がない事も
充分承知していたが、それでも一つひとつを丹念に確認しながら進むと・・・
1番シリンダー ピストントップに溜まったオイルが現れて、その量の多さに
唖然とし・・・ 懊悩しながらも何が原因かを探り続けた・・・
ザップレーシングの長谷川氏が 気にしてエンジンを見に来た・・・
スピードショップイトウのアキオも可能性を考え、いつもより口数が少ない。
と、その時!
誠太郎が「ガイドが落ちてます!」と 声を荒げた!
見ると1番のエキゾーストバルブガイドが排気ポート側に大きく落ちている。
こんなに落ちていれば 確かにあの白煙の多さも頷けると言うものだ。
この時点で13:00
バルブガイドにケミカルを塗って押し戻し、ポンチで鉸めれば何とかなるか。
いや・・・ ダメだろう・・・
これは今この場で 何とか出来る類のものではない。
なれば・・・
14:00
練習用に使用していた、ツインプラグ加工だけ施してある ほぼノーマルのスペア
シリンダーヘッドを店から持って来てもらい、コンバートする事に・・・
コース上では既に各クラスの決勝レースが始まっており、場内アナウンスや
エントリーマシンのエキゾースト音が聞こえて来て 焦らずにはいられない。
このシリンダーヘッドはコンマ3mmほど厚みが多く、圧縮が低下する事は
わかっていたが もはや走れる事を優先しているのだから致し方ないだろう。
むしろ組み上がって火を入れてからのインジェクションマップ調整の時間が
あるかどうか・・・
そればかり気に掛けながらの作業だ。
14:30・・・
この時点で、決勝開始の15:30まで 残す所 あと1時間・・・
15:30には全車 一斉にスタートするであろうから、その10分前でもいい。
その手前で車検を通過させなければ 全てが終わりだった・・・