サンクチュアリー本店レーシング
歴々の志を受け継いだ最終走者、Zレーサー3号機での ゼッケン39最後の挑戦
2019年 11月 Round-1
スーパーモンスターEVOLUTION クラス優勝、ベストタイム58秒664
空冷Z最強・最速を目指して 最後の挑戦に臨んだ第1ラウンドは、最初の口火と
してはまずまずの結果で、次こそはと意気揚々の出発であった。
だが・・・
続く、2020年11月 Round-2では
予選で58秒071を叩き出して、スーパーモンスターEVOLUTION クラス
レコードタイムを更新し、水冷&油冷エンジン 最速ハーキュリーズとの混走クラス
総合でのポールポジションを獲得するも・・・
決勝前の練習走行中に エキゾーストバルブガイドが脱落すると言うアクシデントから
急遽、シリンダーヘッドを練習用のスペアに交換すると言う展開に・・・
突貫作業で決勝に間に合わせるも、今度は1周目にシフトドラムにトラブルが発生し
リタイア。
やり残し感だけが残った、無念な幕引きであった。
年を越して2021年は
もちろんコロナ禍もあるにはあったが・・・
ライダー國川浩道の怪我、更には サンクチュアリー本店もかつて経験した事がない
業務の多忙さからレース活動が出来ない状況に・・・
それでも2022年に向けて3号機の作業は合間に行われ、昨年の12月・・・
久々に筑波サーキットのパドックを訪れていた。
1年もの間 全く走らせていない事に対する懸念もあったが、2020年の大会で
起こした故障個所を完全に改善し、その結果を確認しておきたいと言う気持ちも
あってのパドック入りであった。
エンジン作業と同時に行われて来たリメイク・・・
新たな外装で以前の現代的なタンクではなく Z1-Rを彷彿させるスタイルに転身。
この新しいタンクでのニーグリップ感が どんな具合かを確認しておく必要性があり
ライダー國川浩道とは「年内に一度走らせよう」と約束をしていた。
國川浩道にとっての2021年は、全日本ロードレース選手権 シーズン開幕時の
転倒から始まった怪我による苦闘の一年であったと察している・・・
それでも彼は 辛抱強く治療に専念し、まだ体は万全でないながらも練習走行位は
できるまでに回復を果たした・・・
当然ながら Zレーサー3号機には1年以上乗っておらず、久しぶりの対面である。
外装の形状が変わった事で違和感がないか、それを入念に確認する國川浩道・・・
わずかな変化もコンマ台のタイムに影響するから、もし気に入って貰えない様なら
やり直さなければならず、我々造り手側にとっては 実は緊張する瞬間だ。
空冷Zであの最強・最速クラスに挑む事は、満身創痍で歩む険しい道のり・・・
Zレーサー3号機とて後軸152馬力までエンジンパワーを上げているが それでも
水冷・油冷 ハーキュリーズクラスマシン達の猛烈な加速には太刀打ちが出来ないし、
ましてや過給機付き車両の速さと来たら ベタな例えだが「ぶっちぎり」であるから
もはや大人と子供のケンカに等しい。
空冷エンジン車として・・・
スーパーモンスターEVOクラスのマシンとして望むには、より速く走る事を可能に
できるライダーが必要不可欠で、そう言う意味で國川浩道は期待に応えてくれる男。
勝機を掴むとするなら、高度に完成し 真に優れた空冷Zレーサーの存在だけである。
およそ1年ぶりに身に付けたであろう、ゼッケン39のレーシングスーツ・・・
回復したとは言え完全な状態ではなく、念入りにストレッチを繰り返す國川浩道。
シーズンオフのシェイクダウンなのだから、無理せずに行こうと意見は一致した。
この日はいつもと違うメンバーにて、湯浅が同行。
パドックやピットでの技量は 理屈ではなく経験や習慣で始めて身につくものであり
また、この経験があるかないかで メカニックとしてのスキルは段違いに変わるもの。
ただ単に雑用係として同行している訳ではない・・・
当然 レースメカと言う仕事を常日頃から熟してる訳ではないから、普段行っている
一般業務からは相当かけ離れた作業が多く、走行時間の前後はもちろん、限られた
走行枠の中でミスをせず 着実に熟さねばならない。
ライダーがマシンを、如何に乗りやすく 扱いやすく そして安全に走れる様にするか
これがレーサーを熟成させる行為の目的の真相であって、地味な作業の連続なのだが
実は非常に高度な技術を要求される分野であり、ピットスキルはストリートバイクの
仕上げ工程においても非常に役立つ。
何度でも言うが 理屈ではない・・・ 結果が全ての厳しい世界・・・
こればかりは熟した者、そしてそれを積み上げた者にしか 手に入れる事ができない
真に実力を示せるメカニックへの登竜門でもある。
空冷Zなど時代錯誤もいいとこ?・・・ もはや、およびではないのか・・・
それを見極める為のレースと化しており、挑むべきZレーサー3号機と國川浩道。
狙うベストタイムは 57秒台だが
それが果たして空冷Zで到達できる世界なのかは わからない。
だがもしも、空冷Zでそこに辿り着けたのなら・・・
もうやめる事が出来る。 そう思える・・・
完全無欠な最高完成度のマシンと、常軌を逸脱したライダーの走り
この2つが偽りではなく真実にならなければ、絶対に成し得ない現実だった。
遡る事 半年ほど前、2021年の夏頃。
エンジンの修理と改良はとにかくも、何故 外装パーツを変更したかと言えば・・・
もうそれはただ、中村の我がままに端を発したものである。
そもそもZレーサー3号機は、オリジナルフレーム RCM USA A16Rである。
17インチホイール専用にカスタマイズできる最後のパーツこそがフレームであり
この専用フレームによりZは最後の進化を遂げる。
その走行性能は乗れば誰でもわかる それほどまで決定的な違いであり、だからこそ
3号機はあの走りを現実化できたとも言えた。
中村の愛機001もA16Rであり、長年サンクチュアリーのトレードマーク的な
存在であった中村のRCM Z1-Rルックをそのままに継承しているのだが・・・
ようするに今回の3号機リメイクも、自分がZ1-Rの姿・形にしたいと我がままを
言い出した事から始まった訳だ。
より空冷Zとしての存在感を高めたい・・・
そんな世界観を追求してのリメイク。
製造作業はもちろん社内工場、完全内製のハンドメイドにて始まった・・・
(その2)に続く