サンクチュアリー本店レーシング
歴々の志を受け継いだ最終走者、Zレーサー3号機での ゼッケン39最後の挑戦
(その3)
新造したアルミオイルキャッチタンクは、タンクそのものに機能性を設けたもの。
3号機のエンジンは、歴代のレーサー1号機、2号機をはるかに凌駕する馬力を
叩き出し、最高出力は後軸出力152馬力。
トルク&パワー共に、サンクチュアリーのZエンジン史上の中で最大火力を誇る。
だが 同時にエンジン内部の圧力が大きく上昇し、これまで経験した事のなかった
レベルの内圧との戦いに陥ってしまう。
オーソドックスなポンピングロス加工では内圧を処理しきれず、減圧バルブの類も
試すがそれでも改善されなかった事から 大胆な減圧加工を施工しているが・・・
キャッチタンクに溜まるオイルの量は増加傾向で、開放口からの吹き出しは増長
しており、ホースから吹き出さない様にとタンクに工夫を凝らしたものである。
複数の空間を経由してブローバイガスが開放される、新型のオイルキャッチタンク。
エンジンケース内の内圧がこれほどまでに高く、脅威になるとは予想もしておらず
更には何とか抜いた内圧によりキャッチタンクにまで高性能を求める事になるとは
これまた想定外の事であった。
速さが増す分だけ、どこかにしわ寄せが出る・・・
1号機&2号機では成し得なかった150馬力オーバーエンジンと58秒フラット
での走行は、今まで知り得なかった、考えてもいなかった事ばかりの連続である。
このスチール製の治具は クラッチカバー固定用のナットを溶接する為のもの・・・
マシンをバンクさせた際に、ダイナモカバーやポイントカバーを擦ると言うのは
皆さんピンと来るはずだが、レースではクラッチカバーの下側も擦ってしまうほど
激しく寝かされる。
挙句の果てには、クラッチカバーの一番下側のボルトの頭が無くなってしまって
クラッチカバー本体も削れて行くから 尋常なバンク角ではない。
一番下側のボルトを上に移動する形状にクラッチカバーを加工し、それに合わせて
クランクケース側のナット部も上に移動する為の溶接用治具である。
今回は消耗著しいクランクケースを交換する事になった為、こうしてまた溶接し
加工済みのクラッチカバーを取り付けられる様にしてバンク角対策をするのだが
実はまだ こんなのは序の口・・・
2020年11月の大会 予選で58秒071のレコードタイムを叩き出した後の
次の周回では、第2ヘアピンでのフルバンク直後にエンジンストップしているが
あれは今までのバンク角を更に越え、クラッチカバーやポイントカバーはおろか
ポイントベースまで削り込んでしまい、点火ピックアップコイルの配線が路面に
擦れて配線が抜けてしまうと言う、全く予想すらしていなかったアクシデントが
起こった為であり、3号機のバンク角はもはや1号機&2号機の比ではない。
雑誌”ヘリテイジ&レジェンズ”でも紹介されたが、サンクチュアリーオリジナルの
インナーシムタペットと、より軽量化されたバルブスプリングリテーナーである。
ノーマルの7mmから5.5mmと言う細いバルブステムに変える事で、ポート内の
フロー効率を上げるのは、今ではここ本店でもRCMによく採用されるメニューの
一つとなっているが、バルブステムが細くなるから 当然Zのノーマルリテーナーと
コッターは使えない・・・
でも バルブスプリングはベストレートなものを使用したいから、スプリングだけは
何とかZ用のものを使いたい。
これは5.5mmのステムにZ用バルブスプリングを組み合わせ出来るリテーナーで
それもかなり軽量なリテーナーとして スプリングの選択自由度を広げられると言う
非常に合理的な性能で新設計された優れものである。
大径サイズなバルブ、所謂ビッグバルブになった分のフェイス重量増加をステムが
細くなる事で差し引き帳消しとするから、細いステム化はポートのフロー性能に
貢献している・・・
だが 求めた利点はそこではない。
最大の利点は、ビッグバルブ化によりバルブ単体重量が重くなるとそれに合わせて
ハードなレートのバルブスプリングが必要になるのだが、ステムが細ければ重量の
増加が最低限に抑えられる為、バルブスプリングのレートを上げた効果が得られる。
ホイールを軽くするとサスのバネレートがアップした様な効果が生まれる、あれと
同じ理屈だ。
様々な特性が異なるスプリングで選択肢が広がるのは 大変ありがたい成果・・・
もちろん スプリング線間密着の限界寸法にも余裕が生まれるから、これは大きな
優位性である。
今後はリテーナーだけでなくタペットも更に軽くし、ST5クラスのハイカムでも
バウンスする事がなく、スプリングの耐久性をも向上させる事ができる動弁系統を
実現できるであろう。
3号機のシリンダーヘッドは、現行SSマシンのマニホールドでZX-10Rの
インジェクションスロットルボディをボルトオン固定できる ハイポート仕様の
アクロバティックな加工ヘッドである。
旧型KZヘッドではなく後期型のJ/R系、正確にはGPz1100のヘッドで
溶接加工し、ポートの角度をわずかにダウンドラフト方向へ変更したものだが
レースではいざと言う時のスペアヘッドが必要であって、事実 前大会では出番が
あった訳だが、同じハイポートヘッドをそう易々と造る訳に行かないのが現実。
そこで思いついたのが、ノーマルインテーク形状でもボルトオンでZX-10Rの
スロットルボディを取り付け出来るアダプターである。
これならコストパフォーマンスにも優れるし、何よりお客さん達にも提供できる
パーツとなるから、今後は更に面白いRCMが容易に造れる事となるだろう。
3Dキャドで設計され、A2017S材から美しく削り出され具現化した実物。
加工してないノーマルインテークポ-トに ZX-10Rのスロボがボルトオンだ。
ヘッド側との合わせ面はOリングのみでシールされる構造で、整備性も考慮済み。
10Rのスロットルボディに少加工が必要だが、かなり容易に取り付け出来るから
コストパフォーマンスに優れている。
製品化は・・・
インジェクション化に伴う装備も含めてセットアップまで仕上げる事を考えたなら
シャシーダイナモ無しでは難しいし、やはり無理だろうと判断して量産はお蔵入り。
だが、いずれ普及できる何かを見出したいと思っている。
こんな経緯でリメイクが完了した3号機・・・
改めてご紹介しましょう。
RCM USA A16R ZレーサーⅢ 通称 ”3号機” です。
Z1-Rのフォルムで新生したルックスは、中村のエゴから辿り着いたスタイル。
でも、外装をZそっくりに似せたと言う類のマシンではない。
エンジンが ”空冷” である事・・・
Zにとって 最もZである所以とは、この空冷DOHC2バルブ4気筒エンジン。
レースにおいて不利な事は百も承知の上で、このエンジンだからこそZであると
今も変わらぬ信念を持っている。
クラッチカバーは一番下にあるネジ部を上へ移動し、ポイントベースも削り込んで
点火系ハーネスを上から取り回して 右バンク角対策は万全。
今回のリメイクでは、先ほど見せた軽量リテーナーに加えて カムシャフトも変更し
バルブスプリングレートのバラ付きを同調させつつ バウンスを起こさないものを
APE製から見つけて交換。
圧縮も僅かにアップさせ、後軸出力155馬力オーバーを見据えてテストケースで
組み上げた仕様だ。
トロコイド式オイルポンプがフロント回りに固定された大型オイルクーラーコアへ
効率よくオイルを圧送してくれており、フルパワーで走行しても油温は常に安定。
”空冷”ではあるが、油温上昇を落ち着かせる事ができた事からシリンダーヘッド等
潤滑だけでなく冷却の効果も出ており、オイルの温度が安定するとこれほどまでに
違うのかと言うのが実感としてあった。
これならまだパワーを上げても行けると、今更ながらにトロコイドオイルポンプの
性能には脱帽するばかりである。
シリンダーヘッドの空冷フィンと同じ吸気角度になった、ハイポートインテーク。
溶接加工とミーリング切削により、スーパースポーツのキャブレターホルダーを
アダプターレスで介してZX-10Rのスロットルボディをボルトオン装着・・・
5.5mmステムのビッグバルブは 前大会で脱落したバルブガイドをツバ付き型に
対策して組み直され、大径化された吸排気ポートと 更に高圧縮化された燃焼室は
ZX-10Rのインジェクターでも決して過剰ではない燃料を要求して来る。
152馬力から155馬力へ、たった3馬力を上乗せするのは 実は容易ではない。
だが 燃調マップと点火時期の調整を煮詰めて行けば、155馬力越えを実現する
事ができるスペックを潜在していると感じる。
ビジュアル面で大きくリメイクされたのが、前回のブログでご紹介したワンオフ
アルミタンクである。
タンクキャップの後部にはRCMのトレードマークでもあるステッカーが貼られ
クリアーコートされており、正にサンクチュアリーのRCMである事を主張。
A16はツインスパー形状のフレームが故に、Z1-Rルックのタンクにするため
下部にシュラウドを設けてツーピース構造で形成したが・・・
シュラウドを外せばA16ならではの STKM13C鋼管パイプフレームワークの
側面トラスが現れて・・・
これはこれで 魅力的だなと感じる。
これ見よがしにせず 剥き出しにせず、魅かれるフレームワークをあえて隠してるのは
ボンネットをオープンにした時にしか見れないモンスターカーの如き、見たい意識に
かられる様な、そんな逆刺激を感じた。
ハイセンスなスタイルのTOMO-FRP製シングルシートも サイドカバー部分を
残す形でフィッティング・・・
ピットインして来た際の緊急作業に対応できる様、クイックファスナーで素早く
簡単に脱着できる取り付け構造とした。
メーターは当然、ステアリング回りに装備を取り付けずフレームヘッドパイプに
ブラケットを固定する方式のフレームマウント。
オイルクーラーコアも、トロコイドオイルポンプの場合 全てのコア層にオイルが
満充填されて流れるから、空の時なら軽いコアも実は意外に重くなる・・・
ゼッケンプレートを始め、オイルクーラーもフレームヘッドからのブラケットに
固定しており ハンドリング性能にストレスの影響はない。
こうして見ると80年代の耐久レーサー、あるいは車体が大きくなったホンダの
CBR400Fを連想させるフォルムで、いかつさ、武骨さが 正に空冷エンジンの
レーサーであると感じる。
新しいのに、クラシック・・・
旧いのに 最新鋭なのは、速さと言う絶対無二の真実を追求した果ての当然の産物で
なるほど、 実にこれはRCMらしい・・・ と、感じた。
空冷Z 最強・最速の命を受け
かつて1号機、2号機では、どうしても到達する事が出来なかった最高峰の頂き
志を受け継ぎしこの最終走者Zレーサー3号機ならば、掴む事が可能やも知れぬ
もはや中村自身が 一ユーザー思考と化しており、夢見るバイク少年に戻っていた。
スーパーモンスターエヴォリューションと言う 自らの空冷最速クラスを無視して
空冷Zが あの最強・・・
いや、 ”最恐” ハーキュリズマシン達と対等に戦えるか・・・
そんな ”マンガ” を見たいと願うのは、自分だけではないだろう。
次回、最終回(その4)に続く