サンクチュアリー本店レーシング
歴々の志を受け継いだ最終走者、Zレーサー3号機での ゼッケン39最後の挑戦
(その4)最終回 (*最後に音声付き動画あり)
ふたたび、筑波サーキット・・・
12月の早朝の寒さは厳しく、この時期に筑波サーキットで走行を試みる事自体が
ほぼ無かった事の様に思う・・・
一昨年から昨年にかけ予想を超えたRCMのオーダーが殺到し、なかなか3号機に
時間をさいてやる事が出来なかったから、こうしてシーズンオフの試走になるのは
致し方ない事だろう。
誠太郎と湯浅から、わざわざ持参して来た”SANCTUARY”のステッカーを
タンクに貼って欲しいと渡される・・・
別に会社に戻ってからでも良いのではないかと思ったが、Z1-Rのタンク側面に
SANCTUARYのステッカーを貼っていた中村の愛機RCM-001、そして
Zレーサー1号機と、それを連想させたいと言う心情を感じ取り、かじかむ手で
貼る事にした。
この場にいた誰かが「原点回帰」と つぶやく・・・
なるほど 確かにそうかもな・・・ と、 そう思った。
ハイコンプレッションな空冷2バルブ4気筒エンジンに火が入って唸った!
これより約1年ぶりの走行開始である。
路面温度が非常に低く、國川浩道自身 怪我が完治して完調になったと言う訳では
ないから、当然アタックラップは封印だ。
あくまでも慎重に、フィーリングだけ掴む事に徹しての走行として、コースイン。
にわかに忙しさを増したピットエリア・・・
あたえられた時間の中で自分のペースで仕事をしている、いつもの空間ではない。
誠太郎は湯浅に学ばせながらも、乗り手を優先、まずは先にその心がけがあって
加えて更にレースメカ特有の ”勘” も求められるから、集中力を高める必要がある。
ピリピリと敏感になりながら、思考は常にリラックスしていなければ務まらない。
アタック禁物ではあるが、タイヤ温度が上がって来ると やはりアベレージは高い。
早々に0秒台で周回をし始め その後も淡々と0秒フラットの同じペースを保って
戻って来る安定した走り・・・
路面の温度が低いから いつもの様に深くバンクさせてはいないが、アプローチが
巧みなコーナリングで感触を確かめており、さすが國川浩道と思わされた。
直線は容赦なく火力全開!
咆哮するマフラー後部、熱波から蜃気楼の様になっているのがおわかりだろうか。
ディマースイッチ式シフターを駆使したクロスミッションの繋がりが小気味よく
空冷Zエンジンのフルスペックを完全に使い切った、ロスの無い加速であった。
繰り返し、何度もピットイン。
タンク形状に問題はなさそうだが、タイム短縮の為の要素となるインフィールドの
加点要素が 一昨年の時点より思う様に攻略できない・・・
そんな感じのピットワークであったと印象に残っている。
残ストローク、空気圧の変化、タイヤを冷やさずにする事を疎かにせず、素早く
かつ 正確なデータをピットインのたびに記録して行く湯浅。
ピットでのわずかな違いにてセットアップを調整して行くから、この測定作業は
軽視が出来ない・・・
あえて0秒フラット走行に抑えてキープ走行を続けているのだから、僅かな差の
セット変更でタイムアップに繋がったのならそこに糸口がある訳であり、これが
コンマ1秒に拘るレースメカの基本である。
ミッションの操作フィーリングが良い・・・ そう思える音が終始 聞こえて来る。
シフトドラムの材質が変更された事、そして普段行っているドッククリアランスの
スラスト方向シム調整が適切である事、それら作業の成果があきらかに変速系統の
滑らかさを生んでいる。
レースで酷使しても正作動するエンジンを組めるなら、それはストリートバイクの
エンジンも上手く組める訳で、こういう時「サーキットは大きな実験室」と語った
かの偉大な本田宗一郎氏の言葉を必ず思い出す・・・
ここで通用したノウハウは 絶対にストリートバイク作りの場で大きく役立つ・・・
そう 紐づけ出来るからだ。
それにしても変わらず思うのは・・・
空冷Zで挑む事の、何と苦しく 険しい道かと言う事。
エンジンパワーを突き詰めなければ勝てない、が・・・ パワーを上げすぎれば
壊れるからレースは完走できない。
更に言えば、いくらパワーを上げてもハーキュリーズマシン達の猛烈パワーには
手も足も出ないから パワーをセーブすると言う考え方もないと言う・・・
矛盾・・・
そもそも八方塞がりな条件のレースで勝とうとしてるのだから、どうかしてると
自他共に感じるし、自分でも何をやってんだろうか・・・ と 迷い悩む時もある。
勝つためには空冷Zで出し切れる最高出力+インフィールドで引き離して行ける
優れたシャシー、 そして・・・
小さな援護的構造が高精度で作動する積み重ねが必要があった。
ピットインし、國川が誠太郎にシフターの点火カット時間を調整したいと言って
いる様だ・・・
破壊的な加速を誇るハーキュリーズクラスのマシン出力は 170~200馬力を
発揮している猛者ばかり。
過給機付きマシンに関しては、それらのマシンをもバックストレートで抜き去る
規格外のパワーであるから、それはもう あきらかな差だ。
スーパーモンスターエヴォクラスである空冷Zが、ハーキュリーズマシン達と
対等に走るには ライダーの技量が勝敗を決めるのはもちろんだが、直線区間を
如何に僅差で走り抜けられるかが重要になって来る。
マシンのエンジンパワーで勝つのではなく、マシンのバランスと完成度で勝つ。
そういう意味でもシフターは タイムロスをしない為の重要な機能の一つであり
そのシフターの調整は これまたコンマ1秒刻みでセッティングを変更していた。
ストレート区間のエンジンパワー差は埋めようがない・・・
それはレースを見ている全ての人達が、十分わかっている事でもあるだろう。
100馬力も上回るパワーのマシンを抑え、もしもトップをキープできたなら
それはもう本当に ”マンガ” だ。
この日も相変わらずノートパソコンの出番が多かった。
シフターの点火カットタイムは緻密に煮詰める必要性があるが、正直かなりイイ線
行ってるのではないか・・・
コンマ1秒どころか、0.01秒を何とかしようとしている行為に 只ただ閉口した。
車体もライダーと共に熟成させて行く。
サスペンションとはどう触るか どう詰めるかを、理屈と経験の両面から体験できる
貴重な機会だから、始めての湯浅にとっては良いきっかけになるだろう。
セーブをしながらも、淡々と0秒フラット走行をし続ける 國川浩道と3号機・・・
200馬力前後、あるいはそれ以上の高出力を発揮してるハーキュリーズマシンを
どう攻略すれば勝てるのか、考えながら 見つけだす為の走行だ。
たぶん、勝機を見い出すとするならインフィールドなのだろう。
どのマシンよりもコーナリングが速い・・・ 誰が見ても明らかに違うレベルで。
それを実現させる事が出来れば、エンジンパワーのハンディをカバーできるかも
知れない。
スライド走行でのロスを最小限にすればタイムは短縮するから、クラッチ性能も
これだと言うベストな状態に持って行く必要がある。
エンジンブレーキは ある程度必要なのだが効きすぎればコーナリングスライドの
原因となるからスリッパーのセッティングはエンジン出力特性にあわせた調整が
欠かせない。
更にもう一つあげるとするなら、トラブルが出ない事・・・
ストリート走行では まずあり得ないであろう、フル加速からのフルブレーキング。
立ち上がってフル加速し、容赦なくレッドゾーンまでスロットル全開の直線区間。
いつエンジンブローしてもおかしくない走りをしなければ、あの凶暴な馬力を誇る
ハーキュリーズマシンに勝つ事はできないから、故障リスクを考えている余裕など
一切ない。
常にバクチ・・・
空冷Zが現代の最新バイクに勝つと言うのは、そもそもおこがましい事であり
また そんな夢物語は、本当は絶対不可能な事なんだろうなと薄々感じてもいた。
だが、國川浩道は あきらめていない・・・
いや
サンクチュアリー本店レーシングのクルー達も あきらめていないと感じる・・・
もう15年前のレースとは水準がまるで違う・・・
誠太郎はもちろん、途中から駆けつけて来た吉田裕也も よく知っているはず。
にも拘わらず、本気で目指す目標タイム 57秒5をあきらめていないのだから
捨てたものでもないと
そう 思った・・・
今 空冷Z系車両は世界的に数が激減し、中古車市場は高値高騰をしてしまった。
レトロバイク、ヴィンテージバイクとしての価値感から、走る・攻めると言うより
お宝的な要素が高まって 後生大事にと言う意向と鑑定思考に捕らわれている。
カスタム志向ではなく、何となくノーマル風にして持っておくかと言う方向性だ。
時代が時代だし・・・ 基本は個人の自由である。
だが、そもそもガソリンの時代は あと15年から20年程で終わるのだろうから
それならむしろ、思い切ってやりたい事をやり切った方が 悔いが残らないのでは。
私個人はそう捉えて、今も空冷Zに ”速さ” を求めたカスタムを続けている。
速く駆け抜けるZはカッコいい・・・ それこそがZだと 私は思う・・・
そのために手段は選らばない。
究極に、限界までチューニングされた最速のZを・・・
現代のハイパワーマシン達に抗い、最後に勝利を掴み取るZを見たいだけである。
= 音声付き動画 =