2020年11月のテイストオブツクバ・・・
空冷Z最強・最速の座を掴むべく臨んだ 国際レーシングライダー國川浩道と
サンクチュアリー本店レーシング、 ゼッケン39最後の挑戦 Round2。
前日の予選で、空冷最速スーパーモンスターエヴォクラスのレコードタイム
58秒071をマークし、おまけに油冷・水冷最速クラス ハーキュリーズとの
総合でもポールポジションを獲得すると言う快挙を成し遂げたが・・・
翌日の決勝、特別枠で設けられた走行時間に 白煙を吹き出してピットイン・・・
1番シリンダー燃焼室だけに大量にオイルが混入していたのだが、その原因が・・・
エキゾースト側のバルブガイドが大きく抜け落ちていた事によるものだったのは
先のブログでもお見せした通り・・・
これだけ抜け落ちてれば それはもう、さぞかし大量のオイルが混入したろうから
激しく白煙を吹くはずである。
どんなスペックであれ、決勝を走らせてやりたい・・・
急遽現場で ツインプラグ加工だけ施してある練習用ノーマルシリンダーヘッドに
交換し、ギリギリで間に合わせたのは これまたご承知の通りである。
だがスタートした直後、3号機のエンジンパワーが大幅ダウンしているのが
はっきり見て取れるほど加速に切れがなく、ただでさえ驚異的なパワーを誇る
ハーキュリーズマシン達の前を取る事など もはや不可能な状況・・・
もうピットで見守るしかない 本店レーシングチームのクルー達・・・
この胸の痛みは、空冷Zであの最強・最速 ハーキュリーズマシンに挑むと言う
無謀な行為が生んだ結果であり、私自身、 自分のエゴが生み出したこの状況に
締めつけられ 憤りを感じるほどの想いであった。
やがて シフト操作が出来なくなり、リタイア・・・
コースレコード更新と総合でのポールポジション獲得、また予選・決勝を通じて
ベストラップを記録していたにも関わらず、無念痛恨のリタイアであった。
こうしてレースは終わり
数日後・・・
3号機のエンジンが下ろされ、これより分解に・・・
150馬力オーバーのエンジンで 常時11000回転まで回し続けてはいるが
デトネーションの脅威は見えない・・・
ピストントップの燃焼状態に危なげな焼け方がないのは、点火時期の微調整が
上手く行われている証拠。
だが・・・
決勝の現場でエンジンを開け、シリンダーヘッド交換した際には見られなかった
エキゾーストバルブとピストンの接触跡があった。
交換した練習用のシリンダーヘッドは、ガイドが抜け落ちた決勝用ヘッドよりも
0.2mmほど厚いものだったが あの時 バルブタイミングをロブセンター合わせ
している時間が無かった事からカムチェーンのコマ数合わせでカムを組んでおり
結果、カムの作用は若干進角になっていた。
それでもVPのクリアランスは寸法的に問題なかったはずだから、そう考えると
これはバウンス・・・
実際バルブスプリングのバネレートを測定してみると、新品時から10%前後の
へたりが起こっており、バルブスプリングの賞味期限を改めて知らされる。
ピストンとシリンダーとの”あたり”は とても良好な状態で、ピストンリングの
熱膨張もちょうど良い調整値であったようだ・・・
だがシリンダーブロックを外す前に図ったピストントップ測定にはバラつきが
あり、クランクの芯ずれが起こっている事は間違いない・・・
位相まで狂っていなければ良いのだが、ダメならクランクを全分解しなければ
ならず、何度も分解すれば圧入値が甘くなってしまうから そこが気がかりだ。
現時点では、決勝でシフト操作が出来なくなった原因に辿り着けていない・・・
まだ分解してないから細部まで見ていないが、TW社製6速クロスミッションも
多少の消耗は見られるものの、大きなダメージを受けてる兆候が見あたらずで
ロングアウトプットシャフトのEVOシステムにも問題はない・・・
むしろここまで エンジン内部の潤滑が良好だった痕跡があり、エンジンオイルの
性能はもちろん
またもや このトロコイドローターオイルポンプが活躍してくれて、大きな役割を
果たしてくれていた事は確実であった・・・
ノーマルのギヤ式オイルポンプでは油温の上昇を抑制しきれないし、長いホース
ワークで後付けされた大型オイルクーラーコアへのオイル充填率を上げられるのは
やはりトロコイドローターならではの産物である。
もはやZ系のエンジンで トロコイド式オイルポンプの存在は必要不可欠であり
これなくして あのレベルでの戦いは厳しいとさえ思わされた。
とは言え、突然シフト操作できなくなったのには 何か訳があり・・・
必ず原因があるはず。
更に進めて行くと ある奇妙な状態を発見する・・・
インプットシャフトに遊びが無かった為、何かあるとすればインプット側だと
推測できたが、クランクケースを剥して見ると インプット側シフトフォークに
異変が・・・
アウトプット側シフトフォークはストレスフリーで軽いが、インプット側の
シフトフォークは完全に固まってロックしており ピクリとも動かない・・・
これが原因!
ドラム溝に入っているボルトピンを外しても 全く動かなかった為、やむを得ず
ハンマーで叩いて行くと ようやくシフトフォークが抜けた・・・
インプットシフトフォーク側のドラム溝をよく見て頂くとわかるが、画像の
中央辺り、変速しようとスライドして行く溝に食い込んだ跡が見られるのが
わかるだろうか・・・
食い込んだ部分が中で捲り上がり、シフトフォークが抜けなかったのである。
これは変速の途中で、ボルトピンが何らかの要因で側面に食い込んだ訳だが
繰り返されるシフターでの激しいシフト操作の連続から徐々にきっかけとなる
消耗が起こっていたのだろう・・・
誠太郎が、予選から決勝に至るまでの走行ログを確認し始めた・・・
どこでギヤ抜けしているかなど、ドラムとボルトの因果関係をイメージするべく
参考になる要素を検証している。
アナログ世代である自分の様な人間には、PCで走行時の記録を解析できるのは
素直に凄いと感じてしまう。
おそらくバックストレートをシフターで変速している際、徐々に摩耗が始まり
決勝時に大きく食い込んでロックしたのだろうと推測。
皮肉にもボルトの方はダメージがないから シフトドラムをもうほんの少しだけ
硬くしたい・・・
パーツは硬すぎると今度は割れやすくなるから、なるべくほどほどで・・・
今よりもほんの少しだけ硬くなる様に調質できるのがベストだろう。
後日、ダイヤモンドエンジニアリングの稲葉君がクランクを持って来た・・・
3号機のクランクを精密に検査したいと申し出てくれた為、預けていたのだが。
位相ズレこそなかったものの、大きく芯ずれ起こしていたと言うクランク・・・
特にクラッチハウジングと噛み合う1次減速ギヤウエイト部は大きくずれており
「Zは150馬力越えたエンジンでレースすると こうなる」 と、語っていた。
「これ以上はまずい! やりたくないけど ピン溶接をするしかないです!」 とも
ダイヤモンド稲葉君は語っていた。
ピン溶接は・・・ なるべくなら やりたくない・・・
バルブガイドは対策できるが シフト系統しかり、クランクシャフトしかり・・・
空冷Zのエンジンはライフマイレージが短いが故に、筑波で57秒台を狙うのは
あまりにも苦しく・・・ 険しい・・・
実はまだ馬力を上げられる余地があるのだが、上げて大丈夫なのだろうか・・・
馬力アップを目指す行為から、馬力アップしても大丈夫なエンジンを造らねばと
言う方向に 意識が移行していた。
ともあれ この数日間は次のレースをどうすべきかで懊悩・・・
空冷Zで挑むからには 限界を超えた領域でのエンジンチューニングが必要であり
それなくしてハーキュリーズマシンに抗う術はない・・・
ところがそれは やった分だけ比例して故障リスクが高まって行く・・・
「レースではストリートの10倍 マシンに負担が掛かると言われています」 と
また あの言葉を思い出した。
ましてや今大会、ハーキュリーズクラスのアベレージタイムは 完全に58秒台が
あたり前の水準になっている・・・
直線区間の速さだけで言えば とんでもないパワーのマシンもエントリーしており
1970年代に造られた空冷Zと 近代の水冷エンジンとで、日本のオートバイの
歴史45年以上分のエンジンパワー差を見せつけられた事から、かつての戦意を
喪失し掛かっていたのも事実。
國川浩道に最新水冷エンジンマシンを与えてやりたいと言う想いが、逃げが・・・
日に日に強くなっていた・・・
だが
まだやれる、 まだ行けると 燃えたぎるプライドに・・・
まだ諦めない、 まだ戦えると 威信をかけた想いがあるから・・・
それが如何な向かい風であろうと 脅威であろうと、 もう一度だけ立ちあがる。
Zレーサー3号機での戦いは 次回、ファイナルRoundへ!
泣いても笑っても、どんな結果で終わろうとも・・・ これが最後。
勝てなかったら「やはり空冷Zではダメだった」 と、その時は
キッパリ諦めると決めた。
サンクチュアリークライマックス章の一つである、ゼッケン39最後の挑戦。
20年に渡る挑戦・・・ 2021年、完結へ。