こんばんは、サンクチュアリー本店の中村です。
カムチェーンガイド開発の続き(その3)です。

梅雨明け間もない筑波サーキット、この日の天候は快晴・・・
雨が降らなかったのは良い事だが、反面 朝からとんでもない猛暑を予感させる。
空冷エンジンにとって最も過酷な条件だが 見方を変えれば酷使した走行が必要な
テスト走行にとって打って付けのシチュエーションと言えるだろう。
ただし、現場でテストに取り組む人間達にとっては至って辛い環境である。

この日、テストライダーを務めてくれたのは、かの1号機&2号機レーサーで
パイロットを務めていた懐かしき上田隆仁。
テスト走行とは言え、上田と一緒にピットに入るのは久しく、何となく嬉しい
気持ちを憶えた。

延べ3本の走行を予定しており、先ずは一本目の走行に臨む・・・
エンジンには厳しい暑さだが、乗り手にとっても汗ダクの走行になるだろう。
ここに至るまで 既に2年ほどの時間が経過している・・・
芯金とゴム、それぞれの課題が山積だったのは仕方がないのだが、最後は結局
メカニックにしわ寄せが来る訳で、前日も夜まで準備に追われ大変だった事は
皆さんのご想像通りであった。

この製品開発において最も苦しいのは エンジンをクランクケースまで全分解し
その後、組み立てては走らせ、また分解してを繰り返さなければならない点だ。
陸上競技のリレーで例えるなら、アンカーがメカニックであるとして・・・
芯金やゴム担当のランナーは、第一走者であり 第二走者である。
アンカーが最後尾でバトンを託されても、そこから追いつくのは容易ではない。

では、第一&第二走者たる芯金 あるいはゴム業者はどうであったのかと言えば
別にたるんで かまけていた訳ではない。
ゴムの成形と芯金のプレス それぞれ異なる専門業者がおり、お互いの合致点を
自分達が導かねばならず、つまり 丸投げしてれば出来上がって来るような類の
部品ではなかったと言う事だ。

流動性のある加熱されたゴム材を流し込む金型に 芯金がベストフィットせねば
ゴム成形そのものが上手く運ばない・・・
ましてや、二つの芯金はケミカル接着ではなく ゴム成形時同時接着な訳だから
より寸法精度が求められた。
異なる互いの意見の食い違いや主張が時間が掛かってしまう原因となり、今や
2年と言う年月が経過してしまったのだが・・・

この、エビスサーキットでのテスト走行後のガイド様な・・・
ここまで酷いダメージが現れてしまうような部品を造るなんて、もう二度と
ゴメンこうむる。
より確実な製品にするには・・・
石橋叩いて渡るには関係者達とのコミニケーションも重要。
人間性・・・ 人間関係ありきで、忍耐力が決め手となる2年間であった。

姿・形だけ模倣するのでは お話にならない・・・
本気で材質と硬度と製法に向き合い、全てを洗練し臨んでくれたのだから
むしろ、関係業者の方達には感謝の言葉しかない。

一緒に開発を進めて来たメカニックの永井が、非常にタフな男であった事は
まったく持って救いであった。
当然 永井とて疲れ果ててるだろうが、彼はエンジニアとしての自分の日々を
優先したがっている様に見える・・・
今回の新製品開発において、なくてはならない存在だった。

芯金が折れ、ゴムもひび割れて剥離していたプライマリーチェーンガイド。
スパーク放電発光分光分析から芯金材を紐解き、貼り付け性を疎かにしない
硬度のゴムで成形し直した。

4種ガイドの中でも、一番負荷が掛かっているテンショナー側リアガイド。

芯金がインサートされていない、フロントカムチェーンガイドも新材料で製作。

予報では、明日の筑波は晴れ。
まず、間違いなくテスト走行は行われるはず・・・
この後、アンダーカウルを取り付けたりと 取り組まなければならない課題が
山積みだが、今回のテスト走行をあきらめる訳には行かない。
レースが出来るメカと同じ資質が問われるシーンだったが・・・

迷うことなく、淡々とやってのけました。
面倒くさがらず、打算しないメカニックは 実はライダーに紹介しやすいもの。
ライダーが気に入ってくれる人格のメカでないと、如何にテスト走行とは言え
信頼関係は築けないから、こうして結果を残す為の努力を惜しまない事は大事。
人間・・・
とかく、生まれ、学歴、資格、職歴、そして特技などを高く評価されるのですが
この永井、実はそれらを既に色々持っています。
でも、そんなものではなくて・・・
現代社会の日本人の大半が失ってしまった 一番大事な才能を持っていると・・・
見ていてそう 感じました。
次回(最終回)の公開は22日の予定で、最後にYoutube動画をつけます。





